60代になって、突然「インプラントか、ブリッジか」を選ばされた。
費用は40万円。
正直、高い。
でも俺はインプラントを選んだ。
その理由は、計算してみたら見えてきた。
年末の歯科で、突然の提案
去年の暮れ、歯の詰め物が取れた。
いつも通っている歯医者は年末休み。やっている別の歯科を探し、取れた詰め物を持って受診した。
先生は開口一番、こう言った。
「いつもの所が休みだから、うちに来たんでしょ」
少しイヤミに聞こえた。口はあまり良くない。
だが、どうも腕は良さそうに思えた。
診てもらった結果、歯は3か所悪いと言われた。
そして、そのうち1本に「自費ならインプラントがいい」と説明を受けた。
費用は40万円。
正直、高い。
30年間、歯医者と縁が切れていた
俺は子供の頃は歯医者に通っていた。
だが中学、高校、社会人になると、歯科とは縁が切れた。
歯を磨くのは朝だけ。
食後に磨く習慣がついたのは、この1年ほど。
寝る前に磨くようになったのは、いつからだったか。結婚してからか、妻の影響だったかもしれない。
少なくとも、朝しか磨かなかった歴は30年はある。
寝る前、何か食べても、タバコを吸っても、歯は磨かなかった。
歯が痛くならない限り、歯医者には行かない。
仕事を理由にしていたのかもしれない。昼も夜も、土日も関係なく働いていた。
夜勤の仕事に変わった時、夜勤明けを利用して歯医者に通い、全部治そうと決めた。
確か10本くらい虫歯だった。
夜勤明けに通い続け、すべて治した。
だが——
その時の治し方が良くなかったのかもしれない。
いまになって思う。悔やんでも、悔やみきれない。
ブリッジという選択肢もあった
先生の説明では、ブリッジという方法もあるという。
ブリッジは、悪い歯の両隣を削って橋をかけるやり方だ。
保険が効くから費用は安い。
数千円から1万円程度で済むらしい。
ただし、両隣の健康な歯を削る。
削った歯は二度と元には戻らない。
しかも、ブリッジの寿命は7年から10年と言われている。
そのたびに作り直す。
作り直すたびに、また歯を削る。
そのうち支えになる歯そのものがダメになる可能性もあると言われた。
インプラントは骨にネジを埋め込む
インプラントは、顎の骨にチタン製のネジを埋め込み、その上に人工の歯を装着する治療だ。
怖い。正直、怖い。
だが、周りの歯を傷つけない。
うまくいけば10年、15年はもつという。
俺の前にあったのは、2つの選択肢だった。
- ブリッジ:数千円〜1万円・保険適用・両隣の歯を削る・寿命7〜10年
- インプラント:40万円・自費・周りの歯を守る・寿命10〜15年
金額だけ見れば、迷う余地はない。
でも、金額だけで決めるべきじゃない気がした。
40万円を、1日110円で割ってみた
40万円。
年金暮らしの身にはきつい金額だ。
だが、俺は紙に書いて計算してみた。
この先10年、毎日3食を噛んで食べるとする。
10年は3,650日。
40万円÷3,650日=1日あたり約110円。
缶コーヒー1本より安い。
そう考えたら、出せない金額ではない気がしてきた。
これがブリッジで7年もたずに作り直すことになれば、
その間に両隣の歯まで犠牲になる可能性もある。
結局、長い目で見ればどっちが得か。
そう自分に問いかけた。
噛める歯でいたい、その気持ちが決め手だった
歯がなくなれば食事が変わる。
柔らかいものしか食べられなくなる。
好きなものが噛めなくなる。
それは金額以上に大きな損失だと思った。
60代。
まだ食べたいものがある。
まだ噛める自分でいたい。
その気持ちが、最終的に俺の背中を押した。
あと10年か15年は生きているだろう。
その間、噛める歯でいられるかどうか。
40万円で買えるなら、安いのかもしれない。
俺はインプラントにする方向で考え始めた。
金はかかる。だが、なんとかなるだろう。なんとかする。
妻は黙って頷いた
妻にも話した。
黙って頷いていた。
反対するでもなく、賛成するでもなく。
「あなたが決めたことなら」という空気だった。
家計を握っているのは俺だから、最終的には俺が決めるしかない。
すでに神経の処置は終わり、虫歯の型も取った。
俺の歯の治療は、ここから本格的に動き出す。
長年放置してきた自分への、けじめのような気もした。
歯医者が「いつもの所が休みだから」と言ったあの一言が、結果的に俺の人生を変えることになるとは、その時は思っていなかった。
次回:第2話「決断、CTへ」
インプラントにすると決めてから、次のステップはCT撮影だった。
骨の状態を見ないと、ネジを埋められるかすら分からない。
俺が次に通された部屋で見たのは、自分の頭の中だった。
お金の話、一度プロに聞いてみるか
インプラントは医療費控除の対象になる(自費診療でも、医療目的なら控除される)。
40万円なら、年収にもよるが数万円が戻ってくる計算らしい。
俺はこれを後から知った。
年金生活と保険料、固定費の見直し、家計全体——
60代になると「お金の話」を改めて考える場面が増える。
自分で全部調べるのは正直しんどい。
無料で話だけ聞いてみる、というやり方もある。
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